日本染色体遺伝子検査学会:学会活動を振り返って
2015 年(平成27 年)初頭に際して、一言ご挨拶を申し上げます。私は2000 年から本学会に入会させていただき、昨年までの15 年間で14 回の学術集会に参加して勉強させてもらいました。そして2006年から昨年まで理事を務め、2010 年から2012 年の短い期間でしたが理事長のご指名を受けました。また2001 年(第19 回)と2010 年(第28 回)の札幌での2回の学術集会の大会長を務めるという栄誉に浴する機会もいただきました。この場をお借りして会員の皆様のご支援に御礼申し上げます。昨年12 月付けで奥山虎之理事長から本学会の顧問の委嘱をいただきましたので、もうしばらく本学会の活動を応援したいと思っています。
さて、10 年近く理事として活動しながら、私としては忸怩(じくじ)たる思いを拭えない気持ちでおりました。それは「検査血液学」を中心に臨床検査医学を専門として研究•教育を進めて来ましたが、どのくらい本気で「染色体•遺伝子検査」に取り組んでいたかということに自信がなかったことによります。振り返ってみますと、私が最初に染色体検査に触れたのは、医師になって2年目の1973 年です。北大病院の第3内科で研修医として、消化器と血液内科
学を学びましたが、1年先輩で当時、北大に設置されていた染色体研究所で染色体分析を学んで来た先生がいて、その先生の下でPh 染色体(当時Ph1 染色体)の検査を習いました。カルノア固定液の作成やメタフェーズの展開から写真の撮影などの基礎を学んだ後、G-banding、Q-banding に取りかかった頃、内科全般を学ぶために東京の聖路加国際病院の医員となって移動したため、染色体分析を極める前に終了となってしまいました。この40 年以上前のトラウマがまだ残っているものと思われます。
その後は血液専門医、臨床検査専門医となり、血液形態学、凝固学とともに染色体検査も遺伝子検査も血液疾患診断のための検査として、結果を利用する側にまわってしまいました。40 年後の現在は、北大病院検査•輸血部の臨床検査管理医師として骨髄検査を読んで報告書を作成したり、日常の凝固検査結果の管理などを行っています。骨髄検査でいえば、毎年800〜900枚の骨髄標本を読んで形態学的診断を付けながら、ともに提出された骨髄血を用いた染色体検査、遺伝子検査、フローサイトメトリーによる表面マーカー検査などの結果を眺めています。
私が染色体分析を習った当時は、白血病関連ではPh 染色体のみが知られており、t(8;21)転座などがようやく発見されてきた頃でしたが、現在北大病院検査•輸血部では造血器悪性疾患の染色体検査(G-banding)のほか、Major BCR- ABL、minor BCR-ABL 、AML1-MTG8 、PML-RARA、CBFβ-MYH11 キメラ遺伝子mRNA の検出、Major BCR-ABL、CBFβ-MYH11、AML1-MTG8 キメラmRNA 定量測定、STR キメリズム解析、異性間BMT FISH 解析のほか、MLL、TEL/AML1、IGH/BCL2、IGH/CCND1、13q14、14q32、8q24、IGH/FGFR3、BCL6、5q-など17 種のFISH 検査、WT1mRNA 定量検査を院内の染色体•遺伝子検査室で測定しています。まさに隔世の感があります。特に寛解後の再発の予知には、これらの微小残存病変(MRD)検査の力は絶大で、MRD 検査と同時に行った骨髄検査では白血病細胞の増加はまったく認められないのにMRD 弱陽性の症例で、1〜2週間後に形態学的にも白血病細胞の増加がみられるという経験を日常的にしています。まあ、現在のところすべての症例で染色体•遺伝子異常が認められるわけではないので、形態学の重要性を信じつつ毎日顕微鏡に向かっています。
さらなる染色体•遺伝子検査の分野の進展と、日本染色体遺伝子検査学会の発展を祈っております。
北海道大学名誉教授
北海道大学病院検査•輸血部
松野 一彦
詳細はこちら 学会ニュース第12号(2015.1)