学会ニュース20:施設内(=in house)検査を考える
私たちが取り組んでいる医学研究は、分析的妥当性(検査の信頼性)、臨床的妥当性(検査の感度・特異度を中心とした診断能力)、臨床的有用性(早期診断や治療方針と予後の判定など)を満たし、最終的には診断と治療に応用することを目的にしています。学会や論文で発表する技術研究や症例研究成果はそのワンステップにすぎず、それを発展させて新しい検査法や改良法へと実を結んで欲しいと考えます。こうした医学研究の進歩を支えるために、施設内での検査・研究は必須であり、これこそ今後の臨床検査技師の“のびしろ”になると思います。
さて、表題に戻りますが、近年、疾患の詳細な分類や適切な治療法の選択と治療効果のモニタリングに、今や、遺伝子・染色体検査は欠かせない技術となっています。しかしここ十年、保険収載された検査がかなり増えたにもかかわらず、施設内で行っている検査の大部分は、病原体遺伝子検査(95%以上)であり、体細胞遺伝子検査や遺伝学的検査を行っている施設は、数%にとどまっていることに愕然とさせられます(平成27年度 日臨技の調査から)。人件費や設備投資と収入(診療報酬)とのバランス、施設外検査の方が施設内で行うより儲かる構造(施設外検査料は診療報酬より安価)、医療費削減による検査費用の節減、臨床検査に情熱を傾ける医師の不足などなど、様々な要因があると考えられます。
先の第33 回学術集会のシンポジウム1で、施設内における臨床検査技師の役割を強調するには、「医療機関、または内部の臨床医師で評価の高い専門医療について、包括的な共同研究を提案し、その実践を通して、施設内検査の意義や重要性をアピールしていく」との発言がありました。私もまったく同感であり、今後の臨床検査技師が目指す方向を見事に指摘していると思いました。学会で積極的に発表する施設は、すでにそうした研究環境が整っていると考えられます。単に一回の発表で終わるのではなく、その方法が施設に定着するまで、引き続き、広く、深く極めてもらえたらと思います。
最後に、遺伝子・染色体検査の診療報酬について、少し述べたいと思います。
現在、保険収載されている検査には、薬事承認検査薬、すなわちIVD(In VitroDiagnosis)試薬に限定された検査と、自家調達試薬、すなわち薬事未承認の試薬を用
いたLDT(Laboratory Developed Test)検査があります。前者のほとんどは病原体遺伝子検査ですが、この中にも検査試薬や方法が規定されていないLDT 検査がいくつかあります。後者は、体細胞遺伝子検査や遺伝学的検査で、PCR 法、SSCP 法、RFLP 法、サザンブロット法、シーケンス法等、検査項目により工夫が必要な検査が含まれます。後者を活用して、医療機関、または内部の臨床医師で評価の高い専門医療について、検査から幅広くバックアップする体制から始められたらなと思います。いかがでしょうか。
日本染色体遺伝子検査学会 事務局長
香川県立保健医療大学
上野 一郎