学会ニュース16:遺伝⼦検査を⾏うために⼤切な事

遺伝子検査を行うために大切な事

近年、分子生物学の進歩により、疾患の分子病態が次々に解明され、その結果、感染症や造血器腫瘍の遺伝子検査を中心に日常検査として行われている。さらに、ヒトゲノムが完全解読されることによりヒト遺伝子の解明研究が進展し、遺伝子異常と疾患との関連性が明らかになってきた。これにより、遺伝子検査の対象は、さまざまな診療領域において、早期診断から個別化治療や予防へと応用範囲が広がり、保険収載項目の拡大により利用が促進されてきている。今後、益々臨床からのニーズも多様化していく事が予想され、最近では、抗癌剤等の薬物療法において治療対象患者を層別化するためのファーマコゲノミクス(PGx)検査が注目されている。
現在では、肝炎ウイルスや結核などの感染症の遺伝子検査と一部の遺伝子検査を除いては、測定のキット化が行われていないため、各施設にて独自に測定系を組み立てて行っているのが現状である。このため方法や検査機器の違い、測定者の技術誤差など様々な理由から測定精度も担保できず、施設間での整合性が行われず、検査の標準化も殆ど進められていない状況である。しかし、今後も臨床からのニーズは増え、これに伴い検査に必要になる技術も多岐にわたるため、ニーズに答えるためには、それらの技術を習得することが必要になってくる。
遺伝子検査では、操作が煩雑であるために、1 つ1 つの操作のロスが最終的に結果に大きく影響する。そのため、技術を習得する際の、きっちりとした教育が必要となり、教育体制の確立も重要となる。技術の習得には、教育体制の確立と同時に個人のキャリアアップが重要である。そのためには、ルーチン業務以外に個人が目標をたて、資格習得(認定臨床染色体遺伝子検査師、遺伝子分析科学認定士など)や学会発表、そして研修会などに参加し知識や技術を身
につけることが大事である。
従来の遺伝子検査は、煩雑で高度な技術を必要とするため、用手法で行程をおこなっていたが、作業の効率化と標準化が求められ核酸抽出過程の自動化が提唱され、自動核酸抽出装置が開発された。今では、技術の進歩により全自動遺伝子解析装置が実用化され、少しずつ臨床検査として導入されつつある。しかし、一方では保険適応の問題や検査試薬が高価なこともあり、普及に向けての課題も残されている。現在、遺伝子検査は大学病院を中心に行われているが、上記の問題が解決できれば、遺伝子検査の自動化により一般病院への普及も容易になり、自施設にて遺伝子検査を行う施設も増えてくると思う。
2003 年にヒトゲノムが完全解読され、これには13 年の歳月と1000 億円を費や__した。それ以降、米国政府はより高速で安価な遺伝子の塩基配列を読み取る技術開発を支援し、かつては国家計画で取り組まなければ不可能だったが、大学の研究室や様々な研究機関が独自に進められるようになってきた。その結果、最近では高速シーケンサーの開発により、1000 ドル以下の安価で高速かつ大量にヒトの全ゲノム情報を得ることが可能となってきた。
また、遺伝子解析技術の進歩も著しく、ゲノム全体をカバーしたDNA アレイ技術を用いた多数の遺伝子の発現状態やゲノムワイドにSNP(1塩基多型)を一度に解析できるGWAS 解析( genome-wideassociation study)などが可能になってきた。これにより、病気発症のメカニズムが解明され、病気の原因遺伝子の特定、薬の効果や副作用を調べることが容易となり、オーダーメイド医療の実現が期待される。
今後、遺伝子検査は臨床からのニーズが増えていく事が予想される。正確で適切な検査を提供していくためには、検査の標準化や個々の技師がスキルアップできるための教育体制の確立(整備)が必要課題である。又、遺伝学的検査の需要もさらに増えてくると予想されるため、検査実施時のインフォームド・コンセント、個人情報や個人遺伝情報の保護体制の整備、検査に用いる試料の管理、検査前後の遺伝カウンセリング体制の整備への適切な対応が必要である。

詳細はこちら 矢印 学会ニュース第16号

日本染色体遺伝子検査学会 理事
筑波大学附属病院 南木 融

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