学会ニュース14:病理分野からの分⼦⽣物学的解析への挑戦

病理分野からの分⼦⽣物学的解析への挑戦

このたび日本染色体遺伝子検査学会にて理事を務めさせて頂く、郡司昌治と申します。新人理事ですが、自分のキャラを保ちつつ一生懸命務めさせて頂きますのでよろしくお願いします。
さて私の専門は病理であります。皆様もご存じのとおり病理分野にも分子生物学的解析の波がやって参りました。病理細胞診断はHE 染色、Papanicolaou 染色を行い、必要に応じて免疫組織化学染色を用いて診断を行っております。最近では分子標的薬剤の感受性評価や病理細胞診断、Grade 分類への鑑別補助的診断に分子生物学的解析を用いた分子病理学的診断が行われます。分子標的薬剤の登場により個別医療に対する分子生物学的解析が必須となりました。
この分野への分子生物学的解析の臨床応用は2000 年に乳癌の分子標的薬剤(Trastuzumab)が本邦に導入されたのを機に、HER2/neu-FISH 解析が体外診断薬として初めて認可され、現在は胃癌にも適応範囲が広がり、薬剤投与の判断に重要な検査となっています。現在では分子標的薬剤の感受性評価は肺癌のEGFR(Gefitinib、Erlotinib、Afatinib)、ALK(Crizotinib、Alectinib)、大腸癌のKRAS( Cetuximab )、慢性骨髄性白血病のBCR/ABL(Imatinib、Dasatinib、Nilotinib)で用いられています。また分子生物学的解析は病理細胞診断、Grade 分類の鑑別補助的診断に用いられており、軟部腫瘍、中皮腫、脳腫瘍などに応用されています。しかし、病理分野の分子生物学的解析は歴史が浅く、標準化や精度管理などまだまだ問題を抱えています。病理細胞診材料を用いたEGFR、KRAS 解析の遺伝子検査感度は1~5%であります。手術材料は腫瘍成分が多く採取され検査精度はあまり問題となりません。しかし生検材料や細胞診材料は時に問題になります。悪性腫瘍と診断された標本はすべて解析に適した標本ではありません。腫瘍細胞が少なく、正常細胞や炎症性細胞が非常に多く認めた場合に問題になります。1 個の腫瘍細胞から1DNA採取され、しかし好中球、リンパ球、正常上皮細胞1 個も1DNA が採取されます。したがって腫瘍細胞以外の細胞が多く存在すると腫瘍細胞のDNA 濃度が低下し、検出感度が低下する問題が生じます。PCR 解析は機器の性能、プライマー、プローブに注目されますが、解析に用いる病理細胞診材料の適否の判断が重要であり、非常に腫瘍細胞の比率が少ない場合は材料として適さないことを理解する必要であります。また不適材料で検査した場合は誤判定となる場合があるので注意が要します。現在、病理分野での精度管理や標準化は整備されているものは言えません。今後、本学会もこの件を考えていきたいと思っております。

日本染色体遺伝子検査学会 理事
名古屋第一赤十字病院 細胞診分子病理診断部
郡司昌治

詳細はこちら 矢印学会ニュース第14号

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