学会ニュース13:骨髄増殖性腫瘍(MPN)の新たな遺伝変異 -CALR 遺伝変異-

骨髄増殖性腫瘍(MPN)の新たな遺伝⼦変異 -CALR 遺伝⼦変異-

私は、今年度から理事を務めさせて頂き、「標準化精度管理委員」を担当させていただきます。現在まで、標準化精度管理に関して学会として取り組んできている主なものは、染色体遺伝子検査標準化のガイドライン2010、染色体遺伝子検査の品質保証のための指針第2編の作成、遺伝子検査の基本技術の検討、定期的に実施している染色体核型サーベイ等があります。今後、さらにアンケート調査等も交えて進めて行きたいと思いますのでご協力の程よろしくお願いいたします。
さて、今回は標準化に関する事ではなく、オーストリアと英国の研究グループが、2013 年12 月のN Engl J Med 誌に報告した骨髄増殖性腫瘍(MPN)の新たな遺伝子変異である、カルレティキュリン(CALR)遺伝子変異についてご報告します。CALRは小胞体の分子シャペロンの1 つであるカルレティキュリンをコードする遺伝子です。生体内での役割は明らかではありませんが、変異型CALR を遺伝子導入した細胞株では、STAT5 が活性化され、サイトカイン非依存性の細胞増殖をもたらすことがわかっています。
MPN の遺伝子変異として、すでにJAK2とMPL 遺伝子変異が知られていました。JAK2 変異は真性多血症(PV)の95%以上、本態性血小板血症(ET)の約50%、原発性骨髄線維症(PMF)の約50%に認められます。一方、MPL 変異はET の1~3%、PMFの5~10%に認められます。しかし、残りの30~40%の症例の遺伝子変異は明らかではありませんでした。オーストリアのKlampfl らは、896 例のMPN 患者のCALR 遺伝子の塩基配列を調べたところ、CALR 遺伝子変異の陽性率は、PV(382例)では0%、ET(311 例)では25%,PMF(203 例)では35%であったことを報告しました。CALR 変異は、JAK2 変異やMPL 変異と重複することはなく、JAK2及びMPL 変異とも陰性のET では67%に、PMF では88%にCALR 変異が認められました。CALR 変異陽性例はJAK2 変異陽性例に比べて血栓症のリスクが低く、生存率は高かったとしています。以上の結果から、MPN の約8 割から9割の症例はこれらの3つの遺伝子変異の有無よって診断可能となり、さらに予後との関係も明らかになっていくと考えられます。CALR 変異の解析方法には、highresolution melting analysis やPCR 法を用いた方法が開発されていますが、当研究所ではPCR 法とダイレクトシークエンス法を用いて変異解析を行っています。今後は、次世代シークエンサーが普及するに従って、MPN の遺伝子診断が迅速に行われていくものと期待しています。

日本染色体遺伝子検査学会 理事
公益財団法人 天理よろづ相談所医学研究所
福塚勝弘

詳細はこちら 矢印学会ニュース第13号

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