学会ニュース6:より複雑になったがん発生のメカニズム

より複雑になったがん発生のメカニズム

ちょっと機を逸した投稿かもしれませんが、冒頭のタイトルは私の頭の中でも整理が付いていません。

がんには、先天性素因のある遺伝性腫瘍あるいは家族性腫瘍(~15%)のほか、いわゆる体細胞性(後天性)のがんがあり、これらは、遺伝子異常の蓄積によって始まると考えられて来ました。そして、人間は約60兆個の細胞のうち、毎日5,000~50,000 個(人によって違う)のDNA が傷ついた細胞(がん予備軍)が産まれ、その細胞をTP53( 転写因子) がCKI(cyclin dependent kinase inhibitor)を発現させ細胞周期を一旦止め、さらにDNA 修復遺伝子を発現してそのDNA を修復し、治しきれない細胞はアポトーシスに導き、免疫の力を借りて体内からがん細胞を排除すると考えられてきました。

ところが、エピジェネティクス(遺伝子の塩基配列を伴わない表現的変化)という概念が10 年頃前から登場しました。特に、DNA のCpG のメチル化、ヒストンの脱アセチル化などを通じて、本来、がん細胞の抑制に関わってきたがん抑制遺伝子であるTP53、DNA 修復遺伝子であるhMLH のプロモーター領域のDNA のメチル化により発現が抑制されるという報告が相次ぎ、がんの進展のメカニズムに新たな要因が加わりました。

その後、遺伝子発現を制御している遺伝子として、非コードRNA(ncRNA)の一つであるマイクロRNA(miRNA)が注目されて来ました。この遺伝子は、私たちの通常の遺伝子にコードされており、主に標的遺伝子のmRNA の3’非翻訳領域(3’UTR)に結合することにより、転写や翻訳を阻害するといわれています。これまでは、腫瘍細胞でmiRNA の解析が進められていましたが、最近は、エクソゾームという小粒子に包まれ、血中を介して細胞から細胞に移行することも報告されています。近年、腫瘍特異的に血中に増減するバイオマーカーとして注目されています。また、あるmiRNA は、造血幹細胞のPro-B からPre-B、そして造血前駆細胞を経て終末分化細胞への分化に大きく関与していることが明らかになり、造血器腫瘍の一因と考えられています。

「発生・分化と腫瘍は隣りあわせ」とよくいわれ、がんの発生は遺伝子異常の蓄積によるものだとこれまで理解されてきましたが、miRNA という新しい因子が加わることで、これによる細胞分化の異常(未熟細胞の異常)ががんに大きく関わっているとも考えられます。したがって、がんの誘因はがんの種類によって、遺伝子異常の蓄積によるものと分化の異常によるものに分けて考えるのが正しいのでしょうか?

いずれにしても、人間の生理的発生・分化・成長に伴って起こる、アポトーシスおよびエピジェネティックな現象は、癌とも深く関わっていることは確実です。1988 年にアメリカのボーゲルシュタインが提唱した大腸がんにおける多段階発癌説は懐かしい限りです。

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日本染色体遺伝子検査学会 理事・事務局長
香川県立保健医療大学 教授
上野 一郎

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